さて今回は、車を量産する前に各種の試験をしたりするためのユニットや車本体を試作する「試作部」のことについて、A/Tの試作を例にとって書きたいと思います。
エンジン設計部、A/T設計部etcには担当の試作部署があります。
各設計部は試作したいユニット(エンジンとかA/T)の部品の図面を描くと同時に「アッセンブリー(以下ASSY:アッシー)図」と「パーツリスト」いうものを作ります。
「ASSY図」には全ての部品の取り付け位置や、組み付け時の注意事項、ボルト1本1本の締め付けトルクなどが細かく描かれています。
「パーツリスト」は、ユニットを徐々に分解して行って「ここのプラネタリーギヤには部品番号XXXXのものを1つとYYYYのものを4つと・・・を使う」ということが書かれた紙の束で、言ってしまえば“そのユニットのDNA”みたいなものをイメージして下さい。
部品の図面が出来上がると、図面とパーツリストを管理部門を通して試作部に渡し、試作をお願いします。試作部は、社内で作る部品については社内の製造部門に試作を指示し、購入部品については部品メーカーさんに試作を依頼します。社内の製造部門にしろ、部品メーカーさんにしろ、いきなり試作部から「こういう部品を作ってね」と言われても、何に使うのかとか年間に何個製造することになるのかとかで、対応方法が変わって来るので、そこは事前に「○月ごろにこういう部品の試作依頼が行きますが、これはZZZという車に載せるもので・・・」などと設計担当者から説明をしておきます。
すべての試作部品が出来上がったら、試作部の担当者に集まってもらい、ASSY図を机に広げたり資料を配ったりして「なぜこういう構造にしたのか」とか「この部品については特に取り扱いに注意して下さい」などといった、設計者の意図の説明や注意事項の連絡をします。これは、必ずしも全ての部品が簡単に組めるようになってなくて、「なんでこういう配置にしたのか?」などといった問い合わせや、「いざ組もうと思ったら上手く行かないのでやり方を教えて」などという依頼を、あとからバラバラにして来られるのを避けて効率を上げるためです。
これが終わると、試作部ではユニットの組み立てが始まります。
自分が担当した箇所がちゃんと組めるかが気になって、組み立て現場に足繁く通ったりしてしまいます。特に入社したての頃は、本当に不安で、一日に何回も見に行き、試作担当の人から「そんなに来られたら、かえって緊張するわ!」と冗談で叱られたりもしましたが、すぐ名前を覚えてもらえるので、あとでその人脈(?)が生きてきます。
一番冷や汗を書くのは「指示通りに組めない」とか「相手部品と干渉する」といった報告が来たときです。上司と走って現場に行くと、険悪なムードが漂っている場合が多く、まず「ここがダメだよ」と説明を聞いてその箇所を見せてもらいます。でも半分くらいのケースは「説明会で伝えたとおりに組んでない」場合であり、「ここは、先にこのスナップリングを嵌めて置いてから、こうやって挿入して組むんです」と説明して、「ああ、そういえば言ってたなあ。スマンスマン」で解決します。もう半分のケースは、明らかに設計側のミスで「済みません!部品を作り直すので時間を下さい」「でも完成の期日、もうすぐだよ」「追加工で行けると思うんで、設計に戻って検討し直します」という最悪のパターンです。もう、脂汗ダクダクですよ。で、作り直した部品が届いたら試作担当のところに持って行き、「出来ました。なんとか完成期日に間に合うよう組んで下さい!」と頭を下げてまわります。私の部品ミスのせいで組めなかった場合、正しい部品が届くまで、試作担当の方々は作業ストップですから、暗~いムードが立ち込めています。すると、一人の試作のリーダー格の人が「○○君、頑張ってみるわ。もうミスするなよ!」と部品を受け取って下さいます。さっきの“人脈”が生きるケースはこういう場合もあります。
なんだかんだで組み立てが完了すると、完成機テスターの所に持って行き、所定の回転数を与えた時に、スペック内の油圧が出るか、とか基本的な作動のチェックをします。それに合格すると、T/Mケースの打刻座に、そのユニットの開発記号と試作番号を打刻してもらいます。これで最初の試作は終わりです。
また、量産が始まったあとも、そのユニットを元に変更を加えてトルクアップに対応したりする場合も、量産A/Tを製造部門から持ってきて、それをベースに補強部品を組み込むのも試作部の仕事です。設計から「組み換え指示書」というものを発行して、それに基づいて組んでもらうのですが、指示書には組換えるのに必要な部品を全て書かないといけないのに漏れがあったりして、また現場から「この部品は流用したらダメなことになってるけど、使うの?」と問い合わせが来たりして、「あ、済みません!それは新品を使います!」と言って指示書を書き直したり慣れないうちは大変でした。
また、急に特別な仕様のA/Tが必要になった場合は、組み換え指示書をもって試作部の係長さんや課長さんのところへ直談判に行きます。試作部は試作部で、1ヵ月後までの組み立て予定といったものを立てているので、そこに特別仕様のA/Tを組む時間をねじ込んでもらう訳ですから、かなり気を遣ってお願いします。「組み立ての工数も限られているし、無理だ」と断られてしまった場合は、組み立て担当者の方へ言って「○月△日までにX台、お願い出来ませんか?」と依頼します。ここでも最初は「そんなの無理だって」と言われるのですが、理由を説明したりすると意気を感じた担当者が「よしゃ!なんとかしてやろう!」と言ってくれます。本当に嬉しい瞬間です。で、係長・課長さんの所に戻り、「現場の方はやってやると言って下さってるんですが、いいですよね!?」と報告し、「じゃあ、今回だけ特別ということでOK」と承諾をもらいます。
しかし私の場合、設計部署内で「○○君(私)が試作部に頼めば、特急でもなんとかなるぞ」という流れが出来てしまい、“緊急の組み立て依頼を試作部にする役”=“私”というふうになっていた時代もあり、試作部の人からは「また○○が来たぞ!」とすっかり顔馴染みになってしまいました。ストレスもかかる役目でしんどかったですが、試作部のオジサンから「お前も大変だなあ。ジュースでも飲んで帰り」と100円くれて一緒に休憩したり、気遣ってもらうときもあり、今となっては懐かしい、いい経験です。
今は試作と一緒に仕事をする機会がなかなか無く、顔を付き合わせて仕事をする機会もないですが、またやる機会があれば、もっと上手に試作部と連携して、「ちょっとは成長したところ」を試作部の皆さんに見せたいです。 by satoru-ball
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